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世界の終わり。
2025年03月15日 (Sat)
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2010年05月14日 (Fri)

 チョコレートの香りが口の中いっぱいに広がって、私は血まみれなのに思わず笑ってしまった。空は突き抜けるように青く、雲は一つもないのに風は冷たくて、
「絶好の死体日和だね」
 とユウは言った。私はうなずく。笑いが止まらない。
 大好きなユウが作ってくれた血糊で私は真っ赤っか、恐らくユウも私と同じかそれ以上に赤い。狭いベランダにレジャーシートを敷いて、鍋いっぱいの偽物の血で体中を汚した。
 この遊びを見付けた時、私たちの間に流れていた怠惰な空気や負の感情が一切拭われた気がした。溶かしたチョコレートに食紅を混ぜるだけ。血糊の完成。こんなに簡単なことなら早くやれば良かったね、って私たちは何度も言い合った。
 まだ少し温かい血糊を手のひらに取り、べたべたと体中にくっつける。その様子を室内に置いたビデオカメラで撮影する。それだけの遊び。何も関係の無い人が外から見れば、異常事態に驚くかも知れない。しかしここは高層団地の八階で、高い柵がベランダを覆っている。下からは覗けないし、近くにはここより高い建物が無い。お隣さんは空家だ。こんなチャンスはまたとない。
 休みのたびに、私とユウは血糊を作って死体ごっこをした。局部的に、例えば左腕や脚の間や頭や心臓の辺り、そこだけに血糊を落としてリアリティを追求し、本物の死体により近付ける。その繰り返し。
 血まみれのユウを見ていると、本当に死んでしまったような気分になって涙が出て来る。真っ赤な私が血の涙を流してユウに縋り付くと、意地悪なユウはぴくりとも動かずに死体になりきる。
「ユウ! 起きて! 死んじゃいや! 私を置いて行かないで!」
 迫真の演技だ。ユウは勢いよく笑い出し、強い力で私を抱き寄せて、より赤くなった私たちはベランダに寝転んで空を見上げる。死体ごっこをする時のキスの味はいつもチョコレートだ。唾液と血液とチョコレートがごちゃまぜになって、最高に気持ちが良い。
「死ぬ時もこんなに気持ちが良かったらいいのにな」
「やっぱり痛いのかな。苦しまずに死にたいね。今みたいに楽しい気分のままでさ」
 真っ赤な顔が近付いて、唇にチョコレート味が再び降りる。ビデオのテープが切れる音が聞こえると、私たちはそのままセックスをした。冷たい風が体中を撫でて、ばかみたいに青い空に赤い血はよく映えている。目を閉じるとチョコレートのにおいがした。
「このまま死んでもいい。死にたい」
 そう言ったらユウは私を殺してくれるだろうか。手のひらを首筋にあて、そのままゆっくりと力を込めて行き、事切れた私はユウの腕の中でだらしなくしなる。
 そんな想像をしながら、真っ赤な顔に手を伸ばしてキスをせがんだ。チョコレートが唾液で溶ける。私は甘い死を迎えた。



(2010/5)
 

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プロフィール
HN:
原発牛乳
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/09/21
職業:
自由人
趣味:
眠ること
自己紹介:

ただのメモです。


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