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世界の終わり。
2025年03月15日 (Sat)
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2010年06月26日 (Sat)

 知らない子が家にやって来たのは、新しいママと暮らし始めて一年が過ぎた頃だった。赤い顔をした小さなしわくちゃの子を見ながら、皆「可愛い可愛い」と言う。
「あなたの妹よ。可愛いでしょ。仲良くしてね」
 そう言われても全然可愛くなんかないし、パパもママも私と遊んでくれなくなって面白くない。「愛」と名付けられた妹はその名の通り愛されて、私はいつも一人ぼっちだ。悔しくて誰もいない時に妹の足を思い切りつねってみたけど、ただケタケタ笑うだけで泣きもしない。何だか馬鹿にされた気がして虚しくなった。

 妹が生まれて半年と少し経った頃、心臓に小さな穴が見付かった。妹は大きな病院に入院し、沢山の管を体中に巻き付けてぐったりしている。ママはずっと妹に付きっきり、私はパパとお留守番。やっとパパを独り占め出来る。そう思ったのに、パパはそわそわ家中を歩き回ったり、いきなり泣きだしたり、全然私と遊んでくれない。ここにはいない妹の名前ばかりを何度も呼ぶ。私の名前は忘れてしまったのかな。
 夜、布団に横になると涙がぼろぼろ溢れてきた。パパは大きな溜息を吐き、背中を向けて寝てしまった。
「お前なんて知らない」
 そう言われているようだった。

 手術が無事に終わり妹が家に帰ってくると、パパもママもニコニコしていた。私もつられて笑った。妹は胸に大きな傷があったけれど、私の顔を見てケタケタ笑うくらいに元気になった。
 次の日、ママと妹と三人でスーパーに買い物に行った。心臓に繋がった大きな機械と一緒にベビーカーに乗せられた妹は、久し振りに見る外の世界にきゃっきゃっと笑う。今日はママも優しい。私のためにアイスを買ってくれた。妹はまだアイスは食べられないもの。何だか妹に勝った気がした。
 ベンチに座ってアイスを食べていると、ママが言った。
「ごめんね、ママお腹痛くなっちゃったから愛ちゃんのこと見ててくれる?」
 私は大きく頷いて答えた。
「わかった。ちゃんと見てるから大丈夫だよ」
 ママがいなくなったあと、知らないお姉さんが近付いてきた。
「赤ちゃん可愛いね、いくつ?」
「八ヶ月です」
 お姉さんは優しそうに笑って妹をあやす。妹もケラケラと笑う。
「抱っこしてもいいかな?」
 私が返事をする前にお姉さんは妹を抱き上げた。心臓の機械が外れ、妹が泣き出すと、お姉さんは妹を隠すように抱えてどこかに行ってしまった。私はそれをずっと見ていた。ママとそう約束をしたから。

 ママは空っぽのベビーカーを見て
「愛ちゃんはどこ…?」
 と真っ青な顔で呟いた。私をその場に置き去りにして、妹の名前を呼びながら狂ったようにスーパーの中を走り回った。
 スーパーの裏の資材置き場から妹が見付かった時、妹はもう息をしていなかった。
「あんたの所為よ! あんたなんか知らない!」
 ママはその場に泣き崩れた。うずくまるママの背中をぼうっと見ていると、食べかけのアイスがべちゃりと落ちた。



(2010/6)
 

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プロフィール
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原発牛乳
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/09/21
職業:
自由人
趣味:
眠ること
自己紹介:

ただのメモです。


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