忍者ブログ
2024.04│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
世界の終わり。
2024年04月30日 (Tue)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2009年05月21日 (Thu)
 バイト先の裏ビデオ屋が摘発されて営業停止になりましたので、私はフリーターに出戻ってしまいました。
 狭く埃っぽい店内で携帯電話をいじりながら店番をし、たまに来る客に会計をするだけで時給1500円になるこのバイトを失ったのはかなり痛かったのですが、まあ仕方が無い。
 仕事も縁だよねえ、と思いながら暫くの間はネアンデルタール人によく似た元店長に媚びを売って食い繋いでいました。しかし、日を追うごとに元店長の小鼻の黒ずみやら白く膿んだにきびやら男のくせにねちっこくあがる喘ぎ声やらが気持ち悪くなって来ましたので、連絡を取るのをやめました。メールアドレスを変更し、元店長の番号を着信拒否設定するだけで、それは容易に実現出来たのでした。あまりの呆気なさに妙な寂しさすら覚えましたが、まあそんなものは幻覚に過ぎないと思い直して、ネアンデルタール人似の元店長のことは忘れることにしました。
 もっと効率の良いバイトは無いものかとコンビニで求人誌を買い求め職を探していますと、昔の彼氏から電話が掛かって来ました。何の理由も告げずに去ってしまった彼氏だったので、もしや復縁を迫る電話なのでは、などと甘い考えを頭に抱いたまま電話に出てみると、
「もしもし、まりあちゃん?」
 元彼氏は私を「まりあちゃん」と呼びました。しかし私の名前は「まりあ」などという可愛らしいものではありません。違います、と言って切りました。間違い電話だったのでしょう。
 意識を求人誌に戻して職探しを再開させると、「時給4500円~日給3万5千円以上」という素晴らしい広告が目に飛び込んで参りました。よく見ると、同じような情報がそのページには幾つも書かれています。違うのはお店の名前と電話番号くらいで、条件も何となく似ているものばかりでした。
 私はそのうちの一つに電話を掛け、面接の予定を取り付けました。翌日の夕方指定された場所に行き面接を受けると、すぐに採用が決まりました。
 この仕事では本名を名乗ってはいけないようです。名前を何にするか、と魔神ブウによく似た社長が尋ねて来たので、私は
「じゃあまりあちゃんで」
 と答えました。昨夜の電話が頭に残っていたのかも知れません。
「まりあちゃん、仕事だよ」
 そう言いながら無駄に喜びを表現しようと唇を寄せて来た社長に連れられて行った場所は、干からびたラブホテルでした。
「抜いて、出すだけだから。頑張って」
 魔神ブウ似の社長は私の耳元で優しく、若干気持ち悪いと感じるくらいの割合で吐息を混ぜつつ囁くと、手を振って去って行きました。
 社長に言われた部屋の前に立って呼び鈴を押します。暫くして戸が開きました。
「こんばんはー、まりあでーす」
 一応可愛いく元気な女の子を装いながら挨拶をし顔を上げると、元店長の潰れたあごにきびが目に飛び込んで来ました。
「え、すみこちゃん…」
 パンツ一丁になった元店長が呆けた顔でこちらを見ているので、取り敢えずダッシュで逃げました。元店長と仕事をしても前と同じだと思ったからです。
 逃げ込んだ先のコンビニで社長に電話を掛けて辞めることを告げました。どうやら私はまりあちゃんにはなれなかったようです。別の求人誌を買い、人生そんなに甘くないよなあ、と責め立てるように赤い空を眺めながら家に帰りました。頬を何か冷たいものが流れて行きましたが、気付かないふりをしてスキップをするとすれ違う通行人の視線が痛かったです。



(2007/4)
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
←No.8No.7No.6No.5No.4No.3No.2No.1
最新コメント
[06/27 骨川]
[05/22 くろーむ]
プロフィール
HN:
原発牛乳
年齢:
39
性別:
女性
誕生日:
1984/09/21
職業:
自由人
趣味:
眠ること
自己紹介:

ただのメモです。


ブログ内検索
最古記事