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世界の終わり。
2024年05月01日 (Wed)
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2010年12月20日 (Mon)
 あかん、今気付いてんけど、僕、頭のねじ一個はずれてる。
 どこに置いてきたんやろ。さっきまではあってんで。なんかちょっと頭疲れたなって、頭痛ひどいしちょっと緩めとこかーって思ったら、いつのまにか無くなっててん。緩めたつもりがどっか落としてしもたんやろか。あかん、あかん、これはやばい。
 僕な、ほんまは埼玉県出身やねん。埼玉生まれの埼玉育ち、小学校の時に二年間だけ群馬の前橋てとこあるやろ? あそこに住んでてんけど、今は大宮に住んでるし、生粋の関東人なん。それやのにな、こんな中途半端な関西弁もどきみたいなんしか出てこーへんねん。標準語がしゃべれへんくなってん。絶対ねじがはずれたせいやで。ああもう、ほんまにどうしよう。
 あ、ちょっと待って、よく見たら僕、左手の小指が無い。
 うわ、めっちゃ血出てるやん。めっちゃ血出てるやん。ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってちょっと待って、落ち着いて、誰か僕にこの状況説明して。何で僕の小指無いん? 僕の小指どこ行ってしもたん? うわー血出てるわー。これじゃ赤い糸結ばれへんがな。僕一生ひとりもん確定やん。想像したくないけど一生童貞かも知れんな。いややー絶対いややー。女の子とエロいことしたい。おっぱいさわりたい。ちんちん舐めて欲しい。あーもう小指……、僕の小指、どこー。
 ああ頭のねじも無いし小指も無いし、何でこんなんなってんやろ。今日のめざまし占い、乙女座は一位やってんけどな。
「思いがけない運命の出会いがあるかも!? うどんを食べると吉」
 て言うてたやんか。うどんなあ、なんか腹減ったな。うどんでも食いに行こかー。ってここどこやねん。何やねんここ。何でこんな、え、何で? 僕の目がおかしなったんかな? 全部ピンク色やねんけど。あそこ、木、生えてるな。うん、そこ。葉っぱ、ピンクいな。木の幹、濃いピンクやな。何なん? 葉っぱは緑色が定説やろ。幹は茶色が普通やろ。木の種類とか季節によって多少変化はあるかも知れへんけど、ピンクはないやろ。
 ていうかここは、ピンクい木以外何もあらへん。うわなんかめっちゃ腹減ってきた。何も無いってわかった途端に胃袋が収縮し始めるとか、反則やろ。あーこのまま腹減って死ぬんかなあ。餓死って一番辛いって言うよなあ。お腹が空き過ぎて死ぬとか、ほんま切ないで。切なすぎるやん。
 んん、ちょっと待って。これ、もしかしたら食べれるんちゃう? 下に落ちとる葉っぱ、なんか美味しそうに見えてきたで。人間の本能って言うんかな。順応性っていうの? そういうのん発揮するべき時なんと違うの、今。
 お? いける? いけるいける。甘っ! これチョコレートやん。葉っぱの形したイチゴ味のチョコレートやん。甘っ! のど渇くわ。小指から垂れよる血がぶがぶ飲んでも圧倒的に水分足りひんわ。でもチョコレートは非常食になるって言うよな。じゃあこっち、幹の方はどうなん? 硬っ! 幹かったいなー。しかもめっちゃ苦い。これはないわ。間違いなくカカオ百パーセントやわ。葉っぱ一択やわ。
 はー。とりあえずお腹はちょっと膨れたし、歩いてみよか。
 あれ、僕、靴履いてなかったっけ? コンバースの、黒いオールスターの。高校の時からずっと履いてるやつ。もうぼろっぼろやしそろそろ替えようかなって思っててんけど、僕、靴もどっかに忘れてきたんかな。もう長いこと履いてるから結構愛着湧いてたんやけどなあ。新しいの買えってことかな。うん、来週バイト代入るし新しいの買いに行こ。
 ていうか靴と一緒に僕の脚も消えてるやん。もー、何なん。なんか腹立ってきた。何で僕の脚、膝から下がどろどろなん。めっちゃ溶けてるやん。ありんこが出来るんが唯一の僕の自慢やったのに、スネ毛も溶けてるやん。
 うそーもうやめてー。冗談きっついわー。よく考えたらさっきよりなんか視界が低なったなーって思ってんけど、足が溶けとったなんて予想外やったわー。もうコンバースの靴買いに行かれへんやんか。今度はちょっと冒険して柄もんにしたろかな、って思ってたのに、モテない男はおしゃれすることすら許されません、ってか。悲しいなあ。世知辛いなあ。って、おおおおお。
 うっわ、何、今の何? なんか赤いの飛んできた。えっ、ちょっ、痛い痛い何?
「おにいさま!」
 誰? 何? これか? 何でこの赤い玉はしゃべってんの?
「おにいさま!」
 いやいや僕、弟しかおらへんし。妹属性無いし。
「おにいさま!」
 これはどっから声出てんねやろ。触ってみる? いきなり爆発とかせえへんよな。
「あんっ!」
 えええええっ。何こいつ。何こいつ。
「おにいさま!」
 しつこいな。裏側どうなってんの?
「ああんっ!」
 なんか出っ張りがあるな。引っ張ってみよか。
「いやあああらめええええ!」
 痛ったー。痛ったー、ほんま何。ばちーんて。ばちーんて言うたで、今。案の定爆発しよったがな。何やってん、あの、丸いの。って、うわわわ、めっちゃ飛んでくる。さっきの赤いのんいっぱい飛んできてんけど、何なんもう。
「おにいさま!」
「おにいさま!」
「おにいさま!」
「おにいさま!」
「おにいさま!」
 うっさいわ。誰がお前のおにいさまなんかになるかいな。黙れ。玉のくせにしゃべるな。
 なんかもう腰くらいまで溶けてきてるし、赤い玉はぼんぼん当たって割れよるし、もうほんまにこのまま死ぬんかも知れん。
 ねじ。ねじはどこ行ってんやろ。ねじさえ落とさんかったら僕、普通に生活してたはずやのに。普通。普通って何やねん。何が普通で普通じゃないねん。僕は普通じゃないんか? 普通の僕はどこに行ったん?
 僕は、どういう生活しとったんかな。どうやって生きてたんかな。ねじと一緒に記憶まで落としてしもたんやろか。もう何も思い出せん。頭からっぽのまんま死んでいくんや。
 死ぬ前にせめてセックスがしたかったな。別に可愛くなくていいから、お腹たぷたぷでもいいから、おっぱいなくてもいいから、僕のことをちゃんと好きな女の子のこと、愛してみたかったなあ。好きって言われてみたかったなあ。ちんちん舐めて欲しかったなあ。
 あんなあ、頭、首の後ろんとこ、僕スイッチが付いてんねん。これ押すとな、しばらくの間勝手に意識失ってな、まあいつもやったら半日くらいで意識戻るねんけど、ん? いつもっていつや。ああああもう知らん。わからん。僕に聞くな。僕はもう僕じゃないねん。こんなん僕とは言わせへん。僕はもっと、僕は、僕は……。
 あかんなあ、僕は僕のことすら思い出せへんくなってしもうたわ。僕は誰なん? 僕はどこに行ったん? ねじと一緒に僕も落としてしもたんかなあ。僕はなあ、うん、おっぱいが好きや。小さいおっぱいも、大きいおっぱいも、僕はみんな好きや。それはなんか、覚えてる。僕はおっぱいやったんかな。うん、もう僕おっぱいでいいよ。
「おにいさま!」
 まだ飛んできよるがな。いや、あれ、色変わってるな。あれもピンク色になってる。もしかしてあれ、おっぱいと違う? なんか出っ張ってるとこだけ色濃いし、もしかしてあの出っ張りって、乳首ちゃう?
「おにいさまあああああああああああ!」
 そん時なあ、僕、間違えて首の後ろのスイッチ押してしもてん。間違えて、というか、その乳首がな、僕のスイッチにぴったりはまってん。びっくりしたわ、ほんま。せやから、記憶がここまでしか無いねん。
 僕が誰やったか、君は覚えといてくれる? 僕はおっぱいやで。忘れんといてくれたら嬉しいなあ。今度会った時、母乳ぴゅぴゅっって掛けたるわ。



(2010/12)

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