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世界の終わり。
2025年03月15日 (Sat)
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2009年05月21日 (Thu)
 坂だらけの街に生まれた。十七年前の暑い夏の日のことだ。誕生日が来る度に、生まれてすぐ汗疹が沢山出来て大変だったのよ、と母は溜息を吐く。十七年経った今でも私の腕がざらざらしているように思うのは、その所為だろうか。
 私はよく、夏に生まれた言い訳を考える。一人で、ぼーっと空なんて見上げながら。大抵は、青い煙草と冷たい麦茶で解決してしまう。白い煙が流れる雲と同化する時に、氷が溶けてコップの縁を滴る時に、私は一つずつ答えを見付けるのだ。その度ににやっと笑う自分が嫌いでは無い。
 突き抜ける青と、気怠く流れる白い雲。それだけで私が夏に生まれた理由が解る気がする。言い訳をする様な場面には、未だ出会わないけれど。

 汗で濡れた夏服、揺れる胸元の青いリボン。茹だる様な湿気と日差し。六時間目の授業を早退し、私は毎日三軒隣に住む「シゲオくん」の家に向かう。
「四つ這いになれよ」
「…何で」
「いいから。早くパンツ脱いで」
 シゲオくんに言われるまま私は下着を取り、少し黄ばんだシーツに手を付く。冷たい指が、私のそこをなぞる。私は思わず声を上げてしまう。
「すげーな、ここ」
 体中が心臓になった様に、どくどくと脈打ち出す。この瞬間、私は解放される。止められないのはその所為だ。

 私とシゲオくんが初めて関係を持ったのは、今から四年前。私が中学に入学した年だった。 
 三軒隣の、近所の年上の男の人。幼馴染みと言うには年が離れ過ぎていて、私が生まれた時、シゲオくんは中学生だった。
 シゲオくんには婚約者が居る。私と関係を持つ、ずっと前から。その人は今アメリカに留学していて、帰国したら結婚するのだそうだ。
「いつ帰って来るの」
 その問い掛けに、シゲオくんはいつも答えをくれない。知らない、分からない、まだ、もう少し、そう言い続けて四年が経った。
 それは私を繋ぎ止める為の嘘では無いのか。そう悟った瞬間から、私は何も聞かなくなった。
「欲しいのか?」
「……」
「何か言えよ」
 シゲオくんは、私をいつも乱暴に抱く。そうされることに快感を覚えてしまった私の体は、シゲオくん以外の人とするセックスに、何も感じない様になってしまった。愛情なんて面倒臭いものは無くて良い。シゲオくんのごつごつと骨張った体と強い腕が今日も私を抱くのであれば、私はそれだけで生きて行ける。

「青木、」
 そう呼ばれても最初は誰のことだか分からなかった。三度目に呼ばれた後、先週名字が変わったことをやっと思い出した。母が二度目の再婚をしたのだ。
 私はまだ結婚をしたことが無いのに、十七年のうちに四つの名字を名乗ったことになる。どれが私の名前で、どれが本当の私なのか、考えることすら飽きてしまった。取り敢えず今は、私を「青木」と呼んだ相手の元に走るべきだろう。
 私の名前を呼んだのは、担任である若い数学の教師だった。細身の長身と黒縁の眼鏡は、私を初めて抱いた頃のシゲオくんを彷彿とさせる。他人に興味など全く示さない様な、渇いた視線なんかが特に。
「今日も早退するのか」
「はい」
「ちゃんと早退届出しとけよ」
 ここ数日、この教師とは同じ様な会話を繰り返している。私は学校に居る間、授業中にまでシゲオくんとのセックスを思い出す様になっていた。授業が終わるまで待てないのだ。現に今だって、シゲオくんに似た教師と会話を交わしただけで私は下着を濡らしている。シゲオくんに抱かれることが私の生活の全てであり、呼吸を止めないことに対する理由になっていた。

 世間は程なくして夏休みに入り、私は十七回目の誕生日を迎えた。今年もやっぱり焼ける様に暑く、母はまた溜め息を吐いた。
 夏休みの間何をしていたかと問われれば、相変わらずお兄ちゃんの元に通い毎日の様にセックスしてました、としか答えようが無い。宿題なんて手を付けなかったし、補習も出なかった。
 何度かあの若い担任の教師から電話が掛かって来たけれど、適当な理由を付けて誤魔化した。おじいちゃんの法事だとか、家族旅行に行くからだとか。
 因みにおじいちゃんは健在だし、我が家は家族揃って旅行に出掛けるということがまず有り得ない家庭である。ばればれの嘘を吐きながら、笑いを堪えるのが大変だった。

 夏休みも終わりが近付いたその日も、私はシゲオくんの部屋で四つ這いになっていた。外は十日振りの雨が降り、じとじとと湿気る部屋の中での汗に塗れたセックスは最高で、私は幾度と無く世界の終わりを見せられ呼吸を繋げた。
 ふと、本当に一瞬、私は窓の方に目を向けた。この窓は、この部屋にある唯一の換気口でもある。最中はいつも窓を閉め、カーテンも閉め切っているのだけれど、その日は不自然にカーテンが揺れていた。窓が開いているのだということに気付くまで、時間は掛からなかった。
 いつもの様に私の胸の上に精液をぶちまけた後、いつもの様にシゲオくんは煙草に火を点けた。足下に転がるティッシュペーパーで精液を拭き取り、服を着る振りをして立ち上がる。窓の方をよく見るとカーテンも少し開いていた。
「わざと開けてたの?」
 シゲオくんに尋ねようとした瞬間、カーテンの向こう側の人間と目が合った。おどおどとした、でも物凄く卑しい目線。おこぼれを狙う、痩せこけたハイエナの様な。いつから覗いていたのだろうか。
 近いうちに、私はその男に犯される。
 本能と呼ぶべきであろう揺るがない確証が私の中に生まれ、それからはシゲオくんに抱かれている間もそのことばかりを考えて上の空だった。シゲオくんはそんな私を、いつにも増して乱暴に抱いた。

 その日は呆気無くやって来た。
 夏休みが終わり、五時間目の授業を早退してシゲオくんの部屋に向かう登り坂の途中。目の前に現れた男は私の手を強引に引っ張り、近くの駐車場に私を連れ込んだ。
 おどおどとした目線はこの間と同じ、小太りで年は私より少し上くらい。汗だくになった体からは、欲望に侵された特有の匂いがしている。
 私は抵抗をしなかった。これから行われることはある程度予測出来たし、男から殺意を感じなかったからだ。
 九月だというのに三十度を越す真夏日だったその日は、車の影になった場所でもじめじめと暑かった。それは男の卑しさと欲を象徴しているかの様でもあり、私は期待と興奮で下半身が熱くなって行くのを、噎せかえる様なアスファルトの匂いの中で感じていた。
 男から解放されたのはもう陽が傾き始めた頃で、六回目の射精を終えた男は半裸の私をそのままにして走り去って行った。流石に限界を感じたのだろうか。
 私のそこはひりひりと痛み、手を当てると精液と血が混じったピンク色の液体が指に付いた。押し倒された時に打ったであろう頭も、動かす度にじんじんと響く。
 男のセックスは荒く単調で、期待を裏切られた私は暫くぼんやりと空を眺めていた。ぐしゃぐしゃになったスカートを手ではたき、青い煙草に火を点ける。
「今日はシゲオくんとセックス出来ないや」
 不意に口をついて出た言葉がおかしくて、一人で笑ってしまった。

 シゲオくんの家に行くかどうか迷ったが、セックスが出来ないのなら行く意味は無いのと同じだということに気付き、諦めた。私は家に向かってゆっくりと足を動かす。坂を登る度にそこが痛むので、変な歩き方をしていたかも知れない。
 家まであと二十メートルという所で、携帯電話の着信音が鳴った。シゲオくんの部屋の窓は開けられ、灯りが漏れている。
「今日は来ないの」
 私は少しだけ足を止め、やっぱり今日もシゲオくんの部屋に行くことに決めた。
 夕方だというのに街はまだ火照ったままで、藍色と朱色のグラデーションを私は初めて美しいと思った。



(2006/11)
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2009年05月21日 (Thu)

 六月某日、火曜日。
 コンビニの前でうずくまっていた少女を拾う。少女は自分の名前を知らないと言い、自分がどこから来て何故コンビニの前に座り込んでいたのかも分からないと言う。縋るような目つきでこちらを見上げる少女をそのままにしてはおけず、私は家まで連れて来てしまったのだ。
 雨に濡れ冷たくなっていた少女を浴室に連れて行き着ていたものを全て脱がすと、無数の青痣と幾重にも重なる赤い傷、その上に広がるかさぶたで少女の白い体は滅茶苦茶だった。私は少女を風呂に入れ、体を洗ってやった。傷口に石鹸が染みるのか、少女は時折顔をしかめていたが、痛みを訴えることなどはせず大人しくしていた。風呂から上がり私が持っているTシャツの中でも一番小さなサイズのものを着せると、少女は床に寝転がり眠ってしまった。熟睡した頃を見計らい、私は少女を自分の布団まで抱えて行って寝かせた。少女は翌日の朝まで眠り続けた。

 六月某日、木曜日。
 気象庁が梅雨入りを発表したと夕方のニュースで報じていた。例年より一週間ほど早いらしい。窓ガラスの向こうは淀みきった曇り。ここ三日間ほどはずっと雨続きだったので、梅雨入りしたという事実にも何の疑問を持つことはない。
フローリングの床には、飼い猫のルーと少女が穏やかな寝息を立てて転がっている。少女はよく眠る。その姿を見ているだけで私の体中に安堵が広がる。少女の頭を撫でると、柔らかい毛が手のひらに絡み付いて来た。自然と口元が緩む。幸せである。

 六月某日、金曜日。
 少女と食料品の買い出しに、近所のスーパーまで出掛けた。手を繋ぎ雨上がりのアスファルトの上を歩いていると、少女は浮かれたようにスキップを始めた。つられて私もスキップをすると、少女はこちらを見上げて微笑んだ。白い八重歯がきらりと光る。何故だか私は急に泣き出しそうになってしまった。少女に悟られないよう無理矢理笑みを作り、正面を見据えると虹が出ていた。
「見て、虹が出てる」
 指を差し少女に教えてやると、喜びの声をあげ子どもらしくはしゃいだ。嬉しくなった私は少女を肩車して歩いた。その日の虹はなかなか消えなかった。

 六月某日、水曜日。
 梅雨の中休みとでも言うのだろうか、午前中からよく晴れていた。庭に出て布団を干す私の隣で、少女は地面に落書きをしている。
「これがルーで、これがおじちゃん」
 少女は私を見上げニコニコと嬉しそうに笑った。赤と白の水玉柄のワンピースから突き出た白い腕に走る幾つもの傷がとても痛々しく見えた。私は少女を抱き上げ高い高いをしてやった。きゃっきゃっと声を上げる少女に傷だらけの体はとても不似合いだ。
 布団を取り入れた直後、夕方からぽつぽつと雨が降り出し、夜には激しい嵐になった。少女は雷を怖がり、私にしがみついて震えながら眠りに就いた。明け方まで私は眠ることが出来なかった。少女の美しい寝顔を眺めながらうとうとし始めた頃には、雷も止み雨は上がっていたようだった。

 六月某日、日曜日。
 少女を連れて電車に乗った。行先は、県内で唯一の遊園地だ。遊園地は初めてだ、と少女は言った。そしてとても喜んでいた。
「おじちゃんありがとう」
 と、感謝の言葉までも口にした。私もとても嬉しくなった。この少女を手放してはいけない、とさえ思えた。私がこの手で守っていかなくては、と。
 帰りの電車の中で少女は眠ってしまった。少女の寝顔を直視することは出来ず、私は一人でひっそりと泣いた。少女の小さなリュックサックの中からタオルを取り出し涙を拭くと、少女のにおいが鼻から全身へと広がって行った。余計に涙が止まらなくなった。気が付けば駅を一つ乗り過ごしてしまっていた。

 七月某日、水曜日。
 朝になっても少女は目覚めなかった。まだ少しだけ熱が残る布団と、少女の赤い血が染み込んだ枕に顔を埋めて泣いた。これが初めてではなかった。でも、今度こそ上手く行くはずだと心のどこかで思っていた。それなのに。
 私にはやはり不可能だったのだ。今更それを改めることなどもう出来ない。

 七月某日、木曜日。
 虹を見た。梅雨明け間近の、よく晴れた暑い日のことだった。雨が降った形跡すら無いのに、どうしたことだろう。暫く虹を眺めたあと、庭の大きな桜の木の下に、私は少女を埋めた。今年に入って四回目の出来事だった。既に息をしていない少女はとても美しく、きらきらと輝いて見えた。
 線香を立て少女に手を合わせたのち、ルーの鳴き声が聞こえたので家の中に戻った。空腹を訴えるルーの頭を撫で、ドライフードを茶碗に入れてやる。私が熱いシャワーを浴びているうちに茶碗は空になっていた。私はとても満足した。


(2008/6)
 

2009年05月21日 (Thu)

 あの頃の僕達は小さな田舎の無力な中学生で、勉強も部活も全てがだるくて億劫で面倒臭くて、でも拒絶する気力すら無くて、ただ毎日を平々凡々と、与えられた課題をひたすらこなすことでそこに立っていられた。
「あいつんち、本当のママじゃねーんだぜ」
「あいつの弟、あいつと血繋がってねーんだぜ」
 同級生の陰口も、教師の体罰も、どうでも良かった。全てが忍耐と継続。余計なお世話だ、お前らに関係ねーよばーか、そう思い言い聞かせているうちに日々は勝手に過ぎて行った。そう、どうでも良いのだ。
 血の繋がっていない弟が五歳を過ぎた頃、
「シネ」
 そう僕に唾を吐いた。その日から、この土地も、学校も、空も海も、僕の目に映る全てのものが色褪せて見える。僕達はとても狭い世界で生きているのだという事実に、その瞬間気付いたのだ。男子中学生というのは、この社会においてあまり重要な存在ではない。息を潜め、ただ時が過ぎるのを待つ。それが一番賢い方法だと、僕は知らないうちに学んでいた。
 しかし、それでもやはり思春期特有の思考回路というものも僕の脳内には組み込まれているらしく、生きる意味とか自分の存在価値とか考えちゃったりして、答えが出ない自分に苛立つ自分に自惚れて、何だかんだで今日も呼吸を止められずにいる。痛々しいったらありゃしない。十年後思い出して頭を抱えることは必至だ。でもそんな自分がちょっと好き。思春期だ。青春だ。だから許してくれ。
 殆ど家に居ない父親と、まだ若い継母。生意気な弟。
「僕の居場所は何処にあるの?」
 なんてことは考えない。考えれば考えるだけ虚しくなることを知ってしまったからだ。
 早く大人になって家を出よう。世界中で毎日何十万と死んでいる途上国の子ども達より、僕はきっと幸せだ。だから、きっと大丈夫。この考え方はとても卑怯だということも僕は知っているけれど、その辺りは見て見ぬふりをする。

 放課後、薄汚れた指定靴を履いていたら、クラスメイトの水野という女子に呼び止められた。水野とは特に親しい会話をしたことも無かったのでひどく驚いたが、急いで家に帰ってもどうせやること無いしな、と思い下校を共にすることにした。
 僕と水野は世間話をしながら歩く。今月末に行われる期末テストの話や、好きな音楽の話、先月からずっと学校に来ていないクラスメイトの話。とてもどうでも良い話だ。しかし水野は楽しそうにけらけらと笑っている。雨上がりのアスファルトの匂いが僕は好きだと思った。
 学校の真裏にある公園に差し掛かった時、水野が急に足を止めた。先程までの笑顔が一瞬にして消え、真面目な顔をして僕に訊ねる。
「吉田君はさ、世界に終わりが来ることってあると思う?」
 一瞬考えたフリをした後、思うよ、と僕は答えた。何だそれ、新手の宗教か?沈み掛かった夕日が逆光になり、水野の顔がよく見えない。
「私の世界はね、明日終わるの。明日私は私じゃ無くなるんだ」
 だから何、という気もしたが、水野の黒い髪が夕日にきらきらと反射して綺麗だったし、水野は実は物凄い巨乳の持ち主かも知れないという事実に気付いてしまったので、話を聞くことにした。水野は続ける。
「うち離婚したの。お母さんが外に男作って出てっちゃって、お父さんはお酒の飲み過ぎで入院するみたいで。私施設に入れられるみたいなんだよね。最初はいとこの家に預けられる予定だったんだけど、皆嫌がってて断られちゃってさ。ていうかいきなりだよ。ひどくない?」
 淡々と言葉を並べる水野の顔に憂いは無い。そりゃひどいね、と言うと水野は笑った。

 僕達は冷たい公園のベンチに座り、日が落ちて辺りが暗くなってからも話を続けた。
 水野の巨乳に触れてみたい気持ちが何度か暴走しそうになったが、何とか理性が勝った様だ。よく頑張った、と自分で自分を誉める辺りが大変僕らしい。
 公園の時計は二十時を回り、そろそろ帰ろう、と水野が言った。うん、と立ち上がった僕の右手と水野の冷たい左手が触れる。
 月は雲で隠れて見えなかったけれど、錆びた街灯が水野の顔を照らしてくれた。僕は水野にキスをした。その時の水野の横顔があまりに綺麗だったからだ。
 乾燥した僕の唇が温かい水野の唇に触れた時、泣きそうになってしまったことは秘密にしておく。他人と繋がりを持つことがこんなに温かいということ、僕は今まで知らなかったのだ。

 僕達は手を振って別れた。ようやく出て来た月の下で、明日世界が終わっても僕はきっと後悔しないだろうな、と思った。早過ぎる最終電車の音を聞きながら、帰宅する。

 無力な僕達は、明日も変わらず呼吸を続けるだろう。世界の終わりは、まだ来そうに無い。


(2007/5)
 

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原発牛乳
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/09/21
職業:
自由人
趣味:
眠ること
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ただのメモです。


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